爪垢は苦手

画力に問題がありますがお許しください。

事なかれ主義が生む弊害について

相談者様プロフィール
30代女性/既婚/食品会社正社員/ショートボブ

 

相談内容

私は総社員30人ほどの企業にて営業職をしています。 残業が少なく、私自身、会社の方とは上手くやれていると自覚しており、とても働きやすい職場だと思っていました。

先日、先輩社員のA子さんから、同じく先輩社員のB子さんに対する愚痴を聞かされました。「B子は会社の備品であるボールペンの最後の一本を使ったのに発注しておかない」みたいな些細なものだったと記憶しています。

私の愚痴を聞くスタンスとしては「わかります」「ですよねえ」等のような同調は絶対にせず、「そういうことがあったんですね」「なるほどですねえ」といったほわ~っとした感じでお茶を濁すことに徹していました。

そんな日々を送っていたら、今度はB子さんがA子さんの文句を私に訴えるようになりました。私は変わらず同調しないスタイルを貫いていたのですが、後日、A子さん、B子さんに呼び出され、「あんたはどっちの味方なんだよ!」と恐ろしい剣幕で怒られました。 私はどういった態度をとるべきだったのでしょうか?

 
世界一役に立たない回答

はじめまして。ご相談頂きありがとうございます。

同じシチュエーションの悩みは時折、耳に入ってはきますが、当事者の置かれた立場(学生/社会人、男性/女性、家族間など)によって導かれる解、即ちベストとされる振る舞いが異なってくると思いますし、あなたが「職場」という何でも言いたいことを言える訳ではない環境に亀甲縛りにされ、にっちもさっちも行かなくなった姿が容易に想像できます。

一つ、残酷な事実を申し上げるとすると、同種の問題は各地で発生しているのに、それに対して明確な答えを提示している文献が日本には存在しなということです。付け加えると、この手の相談をSNSヤフー知恵袋に投げかけたとしても「タイミングだよね」「言い方に気をつけようよ」みたいな箸にも棒にもかからない糞みたいな回答しか返って来ないことは火を見るよりも明らかというもの。

しかし安心してください。私が人類史にて立証されている万能的解決策を、貴殿に伝授いたします。

 

まず本ケースに類似する歴史的事件として「第一次朝鮮出兵文禄の役」についてお話させてください(簡略な説明となることをご容赦ください)

戦国時代中期、豊臣秀吉が天下統一後に明(現在の中国)の支配を目論見ました。

明への進軍にあたり、朝鮮(当時は明に従属)を経由する必要があったのですが、秀吉は、対馬を統治している日本の戦国大名・宗義調(そうよししげ)に朝鮮との仲介を命じました。

なぜなら当時の豊臣政権の宗氏への認識は「朝鮮を支配している大名」という完全に誤ったものだったからです(実際はただの交易相手)

 

秀吉の朝鮮への要求は以下のようなものでした。

「明への安全な進軍ルートを確保し、かつ日本軍に加勢し明を攻撃せよ」

 

もちろん、こんな話が通るわけがないのですが、宗氏は宗氏で、秀吉の前で自己のメンツを保つために「わっかりやしたー!伝えときますね!」てな具合で了承します。

全く話が旨くまとまる気配がない今回の仲介事件ですが、宗氏は朝鮮国王に対し「うちの秀吉様が挨拶したいらしいんで、ちょっと会ってもらえません?」とお茶を濁しまくって話を進めることに決めました。

その後は、明を一緒に叩いてくれると期待する日本軍、挨拶に来るだけなのにやたら重装備の日本兵に驚きを隠せない朝鮮軍、パニクる日本軍と朝鮮人民、朝鮮に進軍した日本軍と交戦する朝鮮軍、というお約束の画が出来上がります。

以上の流れから、宗義調は朝鮮出兵のきっかけを作った大悪人、という見解を示す学者もいるくらいです。

(歴史に詳しい人が見たら激怒する完成度ですがイラストを参照してください)

 

 

退屈な歴史の話はここまでに致しまして、今回のご相談におけるあなたは、事なかれ主義、二枚舌、先読み能力欠如の、まさに宗義調にあたります。

先輩A(日本)と先輩B(朝鮮)の両方の顔色を伺い、のらくらりと過ごした結果、涙は枯れ、血で血を洗う、背筋が凍る殺し合いに発展させた張本人であることの自覚を持って頂くことが肝要といえましょう。

 

ここから先が本題なのですが、宗氏はこのピンチをどう乗り切ったのか。

日本軍とともに朝鮮人民を攻撃することにより日本への忠誠を証明し、結果的に宗氏の仲介の失態はうやむやになり、秀吉からのお咎めを免れた、と言われています。

 

つまり相談者様がすべきこと。もうおわかりですよね。

先輩A(会社内における支持率が高い方とします)とともに先輩Bを徹底的に攻撃してください。完膚なきまで、呼吸することを悔やむほどに、人格を否定し、先輩Bの社内における立場を奪うことの1点のみに尽力してください。

それが「あなたの会社内での立場をキープ」し、かつ「自己の悪行による罪の意識に苦しむこと」の2つを達成できる唯一の手段なのです。

 

現代法学における言葉に「利益衡量」というものがあります。

学問的な例で申し上げますとこんな感じです。

(1)太郎は恋人・花子に頼まれて500万円相当の自動車を貸した。

(2)花子は自己の借金の担保とする為、自動車を自己の所有物であると偽り、金融業者に自動車を引き渡した。

(3)花子は借金を返済できなかった。 自動車は競売され、①~②の流れを知らない者が競落。自動車の所有権を得た。

(4)花子は目ぼしい財産を持っていない。

 

「衡」とはハカリ、即ち一つのストーリーにおける登場人物達に「利益」と「不利益」を振り分ける作業を行うことです。

本件では太郎の被った不利益について、太郎自身がドベを引くのか、太郎以外の第三者(金融業者・競落人)がケツを拭くのか、という事案です (花子に責任を取らせるのが物の道理ですが、責任を果たす能力・資力はない)

 

自動車を例に出しましたが、人間関係にも「利益衡量」が求められます。

自己の「不利益」を避けるため、誰に「不利益」を被ってもらうか。その本質を見抜くことが出来てこそ、一人前な社会人と言えるのではないでしょうか。

「みんなが幸福になる方法を考えよう」だなんて甘っちょろいことを言う資格は、もはやあなたには無いのです。

罪を憎んで人を憎まず。あなたが憎むべきは、事なかれ主義が絶対善と信じたあなた自身なのです。

良心の呵責に苦しみ、悶え、大きく成長して頂ければ幸いでございます。

 

あなたの幸せを心から祈っております。

 

遠藤 俊通

 

参考引用文献:

逆説の日本史11〈戦国乱世編〉 著:井沢元彦

週刊朝日百科 日本の歴史6〈中世から近世へ〉 著:朝日出版社 ※絶版